Trauma and Acute Critical Care Center
Trauma and Acute Critical Care Center
東京医科歯科大学 救命救急センター
医科歯科救命救急センターを知る
すべての救急患者に、私達の全力を
〜医科歯科救命救急センターの体制〜
※新型コロナウイルス感染症流行にて一時的に体制変更をしております
東京医科歯科大学病院救命救急センターでは、24時間365日、当院を救急車で受診される全ての方に対応しています。救命救急センターである以上、それが普通なのでは?と考える方もいらっしゃると思いますが、実はそうではないのです。
我が国では、救命救急センターは3次救急(最重症に分類される症例)に対応するために整備されてきました。よって、多くの救命救急センターは3次救急のみの対応になっています。
それに対して、北米を中心にERという考え方があります。TVドラマの『ER』を御存じの方はそのイメージです。
最重症から軽症の方まで、次々と運び込まれる救急症例に対してER医が適宜対応していきます。専門治療に関しては、専門医に引き継いでいきます。
当センターではこれら2つの長所を組み合わせた新しいスタイルで診療を行っています。
急性腹症、過量内服、外傷、脳卒中、心肺停止患者など救急車で来院した全ての症例の初期対応を救急科で行い、心臓カテーテル治療や脳外科手術など専門的治療となるもの以外は救急科でその後も対応します。また、各科にオーバーラップする病態の場合は救急科入院の上で各科と連携をとりながら治療します。入院後の集中治療はもちろん、リハビリテーション、転院などのマネージメントも行います。
つまり、来院から退院までを受け持つという考え方に基づいて診療にあたっています。
このシステムを採用することにより、救急に専従する医師による一貫した、高度な医療の提供が可能になると考えています。例えば、最終的な転機を見据えた戦略的な治療法の初期段階からの選択、中等症、軽症と思われた症例の中に潜む重症例の効率的な発見など、多くのメリットを患者さんにと共有できると考えています。
「救急車を断らない」「救急車で来院した患者さんは全て救急科が対応する」この2点をモットーに発足した当センターは平成18年4月に救急車の受け入れを開始し、同年8月に3次救急の受け入れを開始しました。医師のみならず、関係した全ての者の高い志と努力により、毎年、国立大学救命救急センターとしてトップクラスの実績を上げています。今後も東京の中心に位置する救命救急センターとして、多様化・複雑化する救急医療の現状に立ち向かい、貢献していきたいと考えています。
外科学の一分野として
〜Acute Care Surgeryの実践〜
東京医科歯科大学救命救急センターは一部の専門症例を除き、当センターで術前検査、手術、術後管理を独立して行っているのが特徴です。基本的には院内の手術室で手術を行っていますが、手術室まで間に合わない症例、たとえば大動脈瘤破裂による出血性ショックや大腸穿孔による敗血症性ショックなどバイタルが不安定なもの、また外傷性ショック患者を初療室内の手術室で手術、処置を行っています。また、その場合は所属の麻酔科医師が対応するのも特徴です。
手術については、所属の10人以上在籍している外科専門医がレジデントに指導します。外科医育成コースでは、最初の1年間で大学(基幹病院含む)で初期診療・集中治療・緊急手術など外科・Acute Care Surgeryに必要な要素を総合して学びながら救急医としての技量も同時に磨き、その後2-3年間を外科専門修練施設に出ることで十分な研修を行うことができ、大学での手術件数は年間300例に達する年もあります。また、急性腹症や一部の外傷症例など腹腔鏡手術適応の患者さんが来院された際も、院内内視鏡外科技術認定医などを取得している外科医が安全に行っております。
緊急開胸や緊急開腹などの特殊な初療室緊急手術から腹腔鏡手術などの低侵襲手術に至るまでを同時に経験でき、術後管理まで行うことができる当センターのような施設は少なく、これから求められるAcute care surgeonの育成を行っております。
どんなときにも、命を守れるように
〜災害医療とテロ対策〜
当教室では救急医療の一環である災害医療にも力を入れています。災害急性期に現地に赴き,迅速に医療介入をするチームであるDMAT(Disaster Medical Assistance Team)指定医療機関であり、日本DMAT(厚生労働省),東京DMAT(東京都),DMATインストラクターも多数在籍します。
当院内のみならず、内閣府・自衛隊・海上保安庁・東京都・東京消防庁・JR東日本等々との連携や平時からの訓練や相互協定を締結しており、首都直下型地震のような自然災害や大規模集客イベントなどで発生する人為災害など来るべき「すべての災害」に備え、日々技能維持に努めています。
少しでも早く患者のもとへ
〜ドクターカーによる病院前診療への挑戦〜
東京医科歯科大学救命救急センターでは平成21年3月よりドクターカーの運用を開始しております。
出動件数:多い日で1日6~7件ものドクターカー要請があります。
出動範囲:文京区、千代田区、中央区のエリアをカバー。管轄内には首都高速道路などの巨大幹線道路、霞が関などの官庁街、東京駅など大型駅、東京ドーム・丸ビルなどの巨大商業施設、有楽町・秋葉原などの繁華街、地下鉄駅などの地下街など、首都東京ならではのものが存在しており、対応が求められる症例も多様化しています。
出動基準:キーワード方式を採用しており、119通報時点で消防指令室・管制員が「重症」と判断した場合に出動要請が出されます。 ※一般の方・他の医療機関からは直接的に要請できません。
運用スタッフ:救急医師(上級医)、救急救命士又は救急看護師、救急事務官(ドライバー)で構成し、必要に応じて医師を増やして出動します。
車両について:当院のドクターカーは「ラピッドレスポンスカータイプ(乗用車型)」を採用し、救急医・救急救命士・救急看護師などの医療資源をいち早く現場へ投入できるようにしております。患者搬送は現場で救急隊とドッキングし、連携しながら救急処置を行い医療機関へ搬送します。
搭載医療器材について:救急疾患に関して対応する医療機器に加え、医師にしか使用できない薬剤・医療機器(超音波診断装置・手術機器)を搭載し、心肺停止・内因性疾患・外傷・中毒・災害などすべての疾患に対応します。
いかなる搬送形態でも、受け入れる
〜ヘリポートを利用した、ヘリコプター搬送患者の受け入れ〜
東京医科歯科大学病院屋上のヘリポートを利用して、ヘリコプター搬送患者の受け入れを行っています。
当院ヘリポートの特徴として、「大型ヘリコプター離着陸可能」であることと「夜間照明設備」があり、24時間離着陸可能です。これは東京都内でも数少ない設備であります。東京消防庁航空隊・航空救助機動部隊を始め、千葉県ドクターヘリ・茨城県ドクターヘリ・神奈川県ドクターヘリ・埼玉県ドクターヘリ、近県の消防防災航空隊ヘリ、警視庁ヘリ、海上保安庁、自衛隊など様々な機関から患者を受けることが可能です。
また、ドクターヘリを運用している関連病院の秋田赤十字病院救命救急センターにも医師を派遣しております。
臨床だけで終わらせない
〜研究・教育までフルサポート〜
【基礎研究】
侵襲における生体反応とその制御の解明、治療法の開発
外傷出血性ショック(T/HS)後の腸管虚血再潅流障害に続発する急性肺障害 (ALI)/多臓器障害 (MODS)は集中治療が発達した現在においても未だ致死率の高い病態である。われわれの研究室では、そのメカニズムの解明および新たな治療法の開発を目指して研究を行っている。
迷走神経電気的刺激による外傷出血性ショック後の多臓器障害抑制メカニズムの解明
(研究代表者:森下幸治)
頸部迷走神経電気刺激がT/HS後のALI/MODSを抑制することをカリフォルニア大学サンディエゴ校との共同研究にて証明してきた。われわれは腸間膜リンパ液中の炎症性メディエーターの観点から、T/HSに続発するALI/MODSの治療としての迷走神経電気刺激の新たな役割を明らかにする研究を行っている。また、東京電機大学との共同研究により迷走神経刺激装置の開発も行っている。
主な論文:Morishita K, Costantini TW, Eliceiri B, Bansal V, Coimbra R. Vagal nerve stimulation modulates the dendritic cell profile in posthemorrhagic shock mesenteric lymph. J Trauma Acute Care Surg. 2014 Mar;76(3):610-7; discussion 617-8. 科学研究費:森下幸治,基盤(C),課題番号15K10968, 課題名:腸間膜リンパ液中の脂質メディエーター機能における迷走神経電気刺激の役割
外傷出血性ショック後の腸間膜リンパ液中のエクソソームの役割の解明
(研究代表者:小島光暁)
カリフォルニア大学サンディエゴ校との共同研究にてT/HSの腸間膜リンパ液中にエクソソームが存在することを報告した。エクソソームは、直径約100nmの細胞外小胞で、悪性腫瘍等の進展に関わる生体分子として注目を集めているが、ショック後の臓器障害との関連は不明である。 そこでわれわれはT/HSモデルの腸間膜リンパ液中のエクソソームがALI/MODSに果たす役割に注目し研究を行っている。
主な論文:Kojima M, Gimenes-Junior JA, Langness S, Morishita K, Lavoie-Gagne O, Eliceiri B, Costantini TW, Coimbra R. Exosomes, not protein or lipids, in mesenteric lymph activate inflammation: Unlocking the mystery of post-shock multiple organ failure. J Trauma Acute Care Surg. 2017 Jan;82 (1):42-50.
【臨床研究】
各種データベースを用いた外傷、心肺蘇生、集中治療に関する臨床研究
1. Diagnosis Procedure Combination (DPC)データベース:
本邦の診療報酬システムとリンクした診断群分類データベースであり、本学医療政策情報学分野の伏見研究班と連携して研究を行っている。1664病院が参加し、救命救急センターの97%以上が含まれる。患者基本情報に病院情報や診療報酬明細情報が組み合わさり、かつ疾患非特異的であるため、様々な分野における臨床疫学研究の強力なデータソースとなる。圧倒的な数の患者の日々の診療プラクティスの解析が可能であり、国内一律レートでの医療費情報が入手できる一方で、時に億単位にも及ぶ複雑なdata handling、マスタ更新、重症度調整や分/時間単位での経過や長期予後情報の欠如などの欠点も存在する。
2. Japan Trauma Data Bank (JTDB):
日本救急医学会、日本外傷学会主導の全国規模の外傷データベースである。外傷に特化した症例が登録されている。病院前バイタルサインや受傷機転、詳細な解剖学的損傷度が入手可能である。欠点としては参加施設が限られること、症例入力に強制性がないことからselection biasが考えられること、登録内容のqualityの問題が挙げられる。
3. Out-of-hospital cardiac arrest registry
日本救急医学会主導の心停止症例データベース。心停止例の救命率向上を目指し、客観的検証に基づく救急医療体制の改善や日本発のエビデンス発信を目標とする。現在89施設が参加。研究課題は登録制であり、当院より6つの研究課題を登録。
4. Doctor car registry
東京都内でドクターカーを運用している4施設が所属するデータベース。心停止、外因、心血管イベント、脳卒中などの病院前診療に関する情報を蓄積。 施設のデータを用いた研究 施設のデータを蓄積し生命予後・機能予後改善や救急診療体制などに関する蘇生医学研究・外傷研究を行う。また東日本大震災などの入手可能なデータを用いて本邦の今後の災害対策について研究を行う。